すごい難解な作品でした
ついに劇場公開された「TENET」を観てきました。もちろんIMAXで。
でも、今作はめちゃくちゃ難しいです。ずっとぐるぐると考え続けています。
クリストファー・ノーラン氏の脚本&監督のSF作品でも「インターステラー」より難解です。
てか、「インターステラー」はストーリーが理解できなくても、美しい宇宙の表現美を楽しめました。
しかし「TENET」は映像が基本的に地味。おっさんたちが銃撃戦を繰り広げるだけ。
そのためストーリーについてこれないと退屈な2時間半になるのですが、その肝心なストーリーが理解を超えているんです。
だから、この映画の評価は真っ二つに割れると思います。
意味不明で2時間半と入場料金を無駄にしたと感じる人、未知なる物理法則の映像化に盛り上がる人……。
かなり観客を選ぶ類の映画ですね。
僕も1度だけ観ただけで理解しきれてませんし、きっと何度見返しても設定について解釈できていないと腹落ちしません。
とりあえず、終幕後6時間以上に渡って考え続けた現時点での解釈を書いていこうと思います。
ということで、3枚の写真の後からはネタバレしていきます。嫌な方はブラウザバックでお願いします。
ネタバレ考察:用語
時間の逆行
「時間の逆行」とはエントロピーの逆転(減少)のようです。
このテクノロジーは未来で誕生したと明言されていますが、その原理や仕組みは作中の現代では未解明です。
とにかく、時間を逆行する装置や道具(=回転ドア、弾丸が埋まった壁、拳銃に戻ってくる銃弾など)が「未来から送られてきた」とのこと。
おそらく、これは「熱力学第2法則」とか「時間の矢」と呼ばれる法則を任意に変えられる技術だと思います。
回転ドア
作中では「回転ドア」が重要な装置として登場します。
世界中に点在する回転ドアは通ることで人物や物質のエントロピーの増大を逆転させることができます。
今のところ僕の理解では、この回転ドアは“折り返し地点”だとしています。
順行側(赤色の部屋)から回転ドアに入ると逆行側(青の部屋)に出ます。
その青の部屋では時間が逆向きに流れているように見えますが、実際にはドアを通過した人物&物体のエントロピーが逆行しているのでしょう。
しかし、本人の視点からすると、自身の時間の流れは順行しているように感じられるため、周囲のすべての時間や物理法則が逆転しているように見えるのです(銃弾が戻ってくる、熱を浴びると冷却される……など)。
時間を逆行する弾丸
未来のどこかの時点で回転ドアを通り、時間の流れが逆転したアイテムです。
将来的に起こる戦争では時間逆行の技術が使われており、作中の現代では時間を遡っていく壊れた部品が多く発見されているようです。
ちなみに、これは回転ドア等の装置を介してエントロピーが逆転されたアイテムなので、主人公の超能力で時間を操っているわけではありませんね。
酸素マスク
時間を逆行している最中は酸素マスクをつけないと呼吸ができません。
おそらく、そのまま呼吸しても逆行するエントロピーを帯びた空気を取り込むことができず、むしろ体内の酸素を奪われてしまうのではないでしょうか?(肺内で逆のガス交換が起きる……?)
それを防ぐため酸素マスクを着用して、時間逆行する酸素を供給する必要があるのだと考えています。
時間の速度
これは不変なものとして描かれているようです。
そのため時間を逆行しているときでも、前日に戻ろうとしたら逆行世界の中で1日を過ごさないといけません。
映画ではカットされている部分が多く(特にコンテナに隠れて時間逆行するシーン)、観客を混乱させる一因でもあります。
アルゴリズム
「アルゴリズム」とは世界全体の時間進行を逆転させる方法を指していました。
アルゴリズムを発動すると、詳細は省きますが、すべての生命が消え去ります。
通過した物体だけエントロピーを逆行させる回転ドアとはスケールが桁違いです。
未来でこのアルゴリズムを開発した科学者はその危険性から9つの物質に分割し、様々な場所と時間に隠したうえで自殺します。
しかし、未来人にはアルゴリズムを用いて過去を改変しようとするグループもおり、その手先となっていたのがロシア人武器商人のセイターでした。
映画開始時点でセイターは9つの物質のうち8つを既に収集しており、最後のひとつであるプルトニウム241を得るためにキエフのオペラ座を襲撃しました(冒頭のシーン)。
そして、高速道路での”挟み撃ち”に成功したセイターは集めたすべてのアルゴリズムを組み立て、ロシア国内に存在する「スタルスク12」内で起爆させることによって発動を試みるのです。
この起爆装置はセイターが身についてているフィットネストラッカーと連動しており、セイターの心拍数が0になる=死亡すると発動するようになっています。
未来からの攻撃
アルゴリズムの正体がわかると理解しやすくなります。
作中でときどき出てくる「未来からの攻撃」とは、散在するアルゴリズムを完成させて発動し、過去を改変することです。
『おいおい、過去で人類を滅亡させたら未来人はどうなんのよ?』
そんな「祖父殺しのパラドックス」について主人公は口にしていますが、攻撃側の未来人はなりふり構わずにアルゴリズムを発動させようとしています(セイターの台詞からは未来では環境破壊が進行して、川が干上がるなどの影響が出ているようです)。
しかし、攻撃を仕掛けている未来人は姿を表しませんし、セイターも手先に過ぎず敵側の黒幕はわかりません。
そして、この攻撃に対抗するのが主人公が未来で組織する「TENET」となります。
挟み撃ち
作中で展開される「挟み撃ち」というのは、時間逆行を利用して現在と未来から状況を有利にしていく作戦です。
- 赤チームと青チームに分かれる
- 赤チームが作戦を開始
- 青チームは赤チームの様子を観察 → 結果を知る
- タイミングを見計らって青チームは時間を逆行
- 青チームは結果を知っているので、赤チームが有利になるようにサポート
- 作戦終了時に青チームは撤収 → 回転ドアを通り時間を順行させる
ただ、ややこしいのは複数の挟み撃ち作戦が同時進行で行われている点です。
「無知」こそ武器
この挟み撃ち作戦で重要なのは、青チーム(未来からの逆進行)が知っている結果が確実に起こることです。
しかし、もし赤チームの人間が未来で起こる結果を知ってしまったら、青チームが観測した出来事が変化してしまう可能性があります。
だって、もし自分の死を招く行動を事前に知っていたら、死なないように行動を変えますよね?
そうなると挟み撃ちが成立しなくなり、作戦は失敗してしまうのです。
そのため、未来からやってきた人間は現在の人が知り得ない結末を教えてはいけません。
つまり、未来に記録が残っている行動を確実に起こしてくれる“無知な仲間”がいることが非常に重要になってきます。
なので未来からの指示で動くTENETのメンバーは秘密主義なのです。
ネタバレ考察:登場人物
セイターの動機
アルゴリズムを発動させて人類滅亡を企むセイター(演:ケネス・ブレナー)の動機が本作での腹落ち感を阻害する一要因であるように感じられました。
強欲で人間性に欠ける彼は、この世の中のすべてを手に入れることを欲していました。
しかし、彼は末期の膵臓がんに侵されており、その願いが叶わないとなると全世界を巻き添えにして自殺しようとするのでした。
正直、やろうとしていることが壮大な割には、動機が自己中心的なのが個人的には気になりました。
ニールの人生
主人公の相棒として活躍するニール(演:ロバート・パティンソン)が本作のキーパーソンです。
彼の正体は未来からやってきたTENETの工作員。主人公=名も無き男(演:ジョン・デヴィッド・ワシントン)の部下です。
つまり、ニールは未来で主人公にTENETの一員として雇われ、現代に逆行してきて作戦を遂行していきます。
そのため初対面(と思われた)のシーンで、主人公がダイエットコークを好むことがわかっていたのです。
つまり、彼の人生の流れは以下のようになっているのだと解釈しています。
- 未来の主人公にTENETの工作員として雇われる
- 時間を逆行して現代へ → 潜伏
- オペラ座の客席でピンチの主人公を救う(※逆行:逆行弾を使用)
- 主人公と共にインドでプリヤの居室に侵入
- 主人公と共に空港でひと暴れ
- 主人公と共にエストニアの高速道路でもうひと暴れ
- 負傷したキャットを救うために空港爆破の日まで時間を遡る(※逆行:コンテナで移動)
- 空港内の回転ドアをキャットと一緒に通り、時間進行を順行に戻す
- 救急車でキャットを連れ出し、治療する
- プリヤ部隊と合流(※逆行:黄色い船のシーン)
- スタルスク12の作戦では青チームに所属(※逆行)
- 時間を逆行して作戦遂行中、アルゴリズム設置場所に敵がいることを知る(※逆行)
- 回転ドアを通って時間を順行に戻し、主人公に危険を知らせる
- 主人公たちとアルゴリズムを救い出す(作戦後の3人での会話シーン)
- 再び時間を逆行する(「扉の鍵を開けられるのは自分だけだから……」)
- アルゴリズムの隠し場所に戻り、鍵がかかった扉の奥で主人公を庇って撃たれて死亡(※逆行:死体が生き返り、撃たれる)
なので、本作のラストで3人が別れる場面は、主人公にとってはニールとの最初のミッションが完了した瞬間ですが、ニールにとっては直後に死亡するため戦友との永遠の別れとなるのです。
ネタバレ考察:シーン
オペラ座(@ウクライナ・キエフ)
まだ主人公はCIAの工作員として活動しており、テロ事件に乗じて暗殺されかかった人物を助け出そうとします。
そこで保護対象者が持っていたのがプルトニウム241でした。
客席に仕掛けた爆薬を回収しているときにテロリストと遭遇しピンチに陥ったとき、逆行する弾丸で助けてくれた人物こそニールでした。
プリヤ邸(@インド・ムンバイ)
主人公がニールと最初に行うミッション。
研究所に保管されていた弾丸の成分を分析した結果を基に、タワーの最上階にあるプリヤという商人の居宅に押し入ります。
ジャンプロープを使ってタワーに駆け上がるシーンは予告編でも多用されていましたが、これって時間逆行じゃないですよね?
僕は逆バンジーだと解釈していて、うまく予告編に騙されたと思っています。
空港
実際にジェット機を倉庫に突っ込ませて撮影したという本シーンは、時間逆行でのストーリーも錯綜して複雑な展開をしています。
- キャットの協力を取り付けるため、贋作の絵画を破壊しに空港内の倉庫を襲撃する主人公
- この襲撃による混乱に乗じて回転ドアを通り、逆行中の時間を順行に戻して負傷中のキャットを救おうとする未来からの主人公
というストーリーが錯綜しており、2人の主人公が遭遇して激しい肉弾戦となります。
おそらく、セイターはこの襲撃の記録を未来で知っていたからこそ、贋作絵画を事前に倉庫から移すことができたのでしょう。
高速道路
これまた複雑な展開が繰り広げられるシーンです。
- プルトニウム241を奪取しようと消防車を使う主人公
- 主人公たちからプルトニウム241を横取りしようとするセイター(※逆行:バック走行するSUV)
- セイターの企みを阻止しようとする主人公(※逆行:横転していたセダン)
がバトルを繰り広げます。
しかし、オレンジケースを受け渡した時にいたセダン車を運転するのが時間を逆行する主人公だと気付いたセイターは横転した車に火を放ちます。
時間が逆行している主人公に放たれた火は、エントロピーの逆行により熱を奪う作用をして凍傷を負うことになります。
コンテナ船
気絶した主人公が目を覚ますとコンテナの中でした。
中にはニールと負傷したままのキャットがいて、貨物船で空港まで戻っている最中。
ここでは数日間の時間が流れているはずですが、カット編集されているので観客は時間軸を見失ってしまいます。
スタルスク12
ロシア国内にあるとされながらも地図から消された「スタルスク12」が最終決戦の舞台でした。
ここで主人公たちはプリヤの傭兵部隊との合同作戦でアルゴリズムの起動を阻止しようとします。
しかし、スタルスク12にも回転ドアがあり、敵側のセイターの部隊も時間逆行を使っていました。
このシーンは(おそらく意図的に)順行する赤チームと逆行する青チームの映像が入り乱れて流れます。
そのため観客側から戦場で何が起こっているのかを把握するのが非常に難しくなっています。
作中では時間を逆行する青チームのニールの動きが重要になってきます。
ニールはアルゴリズムの設置場所に通じるトンネルの入り口にトラップを仕掛け、内部へと消えてゆくセイターのボディーガードを見かけます。
主人公がその先でボディーガードに殺されてしまうのを防ぐため、ニールは戦場にある回転ドアを通って時間を順行へと戻します。
クルマに乗り込んで背後からトンネルへと突入する主人公たちへ警告を発するものの、その声は届かず。
なんとか瀬戸際で地表に開けられた起爆用の穴からロープを垂らして主人公とアルゴリズムを引き上げることに成功しました。
しかし、この働きだけでは主人公はアルゴリズムの発動を阻止できていません。
なぜなら、トンネル内で主人公は施錠された鉄格子に阻まれて、ボディーガードの作業を食い止められなかったからです。
そのため作戦後に3人が別れたあと、ニールは再び回転ドアを通り時間を逆行していきます。
そして、ボディーガードよりも先にアルゴリズム設置場所に回り込んで、内側から鍵を開けて主人公を庇って撃たれて、その命を落とすのです。
ゆっくりとストーリーを把握中
こうして映画を観た後にゆっくりと噛み砕いて、それぞれのシーンを振り返っています。
今はだんだんとストーリーを把握している最中です。
でも、時間の逆行の概念がつかめると、かなり理解が進みました。
1度観ただけで何時間も楽しめるなんて素晴らしい映画作品でした。
またクリストファー・ノーラン監督にやられちゃいましたわ……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ではでは。